阿川尚之
アメリカを探して:第6回 故郷へ帰るアメリカ人

アメリカを探して:第6回 故郷へ帰るアメリカ人

昨年11月イスラエルを訪れた。東京からは直行便がないので、アジア、中東、ヨーロッパの空港を1つ経由せねばならない。10数年前はパリ経由で行ったが、今回は成田からイスタンブールへ12時間かけて飛び、そこで乗り換え、さらに2時間の飛行でテルアビブに着いた。 夜10時半に成田を出発。ぐっすり眠っているうちに、トルコ航空の飛行機はシベリアから中央アジアの広大な大地をよこぎる。眠りから覚めて気がつくと、どう […]
アメリカを探して:第5回 アメリカはタクシーに乗って

アメリカを探して:第5回 アメリカはタクシーに乗って

 2月上旬、アメリカ東海岸の都市をいくつか訪れた。主として列車で回ったけれど、どこへ行っても大変な寒さである。バス、地下鉄など公共交通機関はあてにならず、戸外で待っていると凍傷にかかるおそれさえある。荷物も重いし、しかたがないからどこでもタクシーを利用した。  アメリカのタクシー運転手は実に多様だ。あらゆる人種、あらゆる国の出身者がいる。興味があるので、必ず出身地をたずねることにしている。もちろん […]
アメリカを探して:第4回 寒いアメリカへの旅

アメリカを探して:第4回 寒いアメリカへの旅

 空から見たアメリカ東海岸は、まるで冷凍庫のなかにしばらく閉じこめておいたジオラマのようだった。着陸したジョン・F・ケネディー空港周辺の沼はすっかり氷結し、わずかに残った水路から水鳥が飛び立つ。水温が空気の温度より高いせいだろう。凍りついていない川や湾の水面から蒸発した水分が瞬時に微少な氷の粒になり、白い煙のように空中を漂う。その朝のニューヨークの気温は摂氏マイナス10度。乗り換えたボストン行きの […]
よき隣人と壁の関係:イスラエルを訪れて

よき隣人と壁の関係:イスラエルを訪れて

 イスラエルへ出かけるというと、周りの人たちはみな一様に心配そうな表情を見せる。「大丈夫?」「ロケット弾が飛んでくるんじゃあないの?」「無事に帰ってこられる?」  確かに戦争やテロはイスラエルで何度も起きている。十数年前初めて訪れたときは、パレスチナ人による暴力による抵抗運動「インティファーダ」(第2次)が始まって間もない頃で、観光客は目に見えて少なかった。昨年の夏も一時期ガザ地区からイスラエル国 […]
旅と乗りもの:第5回 「初恋の機関車」

旅と乗りもの:第5回 「初恋の機関車」

 もうずいぶん前のことだが、自宅で何気なくテレビをつけたら、BSで蒸気機関車の特集をやっていた。近頃めずらしいのんびりした番組で、SLを撮影した昔のフィルムを延々と映し、マニアらしい人2人が、「ううん、この場所、この角度で上から撮ったデコイチは珍しいですね」「瀬野八で切り離すとき、運転士はちょっと煙を出して、離れていくんですね、たまんないね」などと、普通の人が聞いたら到底理解不能な会話をしている。 […]
旅と乗りもの:第4回 「乗りものの見える景色」

旅と乗りもの:第4回 「乗りものの見える景色」

乗りものを眺めるのに、ちょうどいい場所というのがある。  改装前の東京ステーションホテルには「椿」というレストランがあって、窓のすぐ外に東京駅のホームが並んでいた。ひっきりなしに列車や電車が入線し、発車する。食事の相手がだれでも、話がどんなにつまらなくても、窓の外を見ている限り気にならなかった。  先般仕事でロンドンに出張し、大英図書館を訪れたあと、すぐ近くのセントー・パンクラス駅に足を伸ばした。 […]
旅と乗りもの:第3回 「大桟橋の記憶」

旅と乗りもの:第3回 「大桟橋の記憶」

 子供のときは汽車と飛行機ばかり追いかけていたのに、ある時期急に船が好きになった。高校進学の少し前、横浜に入港したオランダの客船「ロッテルダム」を見学したのがきっかけである。  横浜に住む友人の父君からボーディングパス(乗船許可証)をもらって、2人で中へ入った往年の大西洋横断航路客船は、2階吹き抜けの食堂や600人以上入れる劇場など、驚くほど豪華だった。煙突のないその独特な船形は、あでやかな曲線を […]
旅と乗りもの:第2回 「海の飛行場」

旅と乗りもの:第2回 「海の飛行場」

 私が子供のころ、飛行機はまだめったに乗れるものでなかった。爆音がすると顔を上げ、上空を飛ぶ機影を仰ぎながめて、ひたすらあこがれていた。幼稚園の庭から大磯の空を横切る双胴機を目撃した鮮明な記憶があり、あれは米空軍の輸送機フェアチャイルドC119であったはずだ。   あるいは羽田空港の見学デッキで、ダグラスDC7C、ボーイング377ストラトクルーザー、そしてロッキード・スーパーコンステレーションとい […]
旅と乗りもの:第1回 「小さな陸橋」

旅と乗りもの:第1回 「小さな陸橋」

 小学校へ上がる前、神奈川県二宮という町の畑のなかの古い一軒家に、1年ほど住んだ。歩いて国道へ出るその途中に東海道線をまたぐ小さな陸橋があって、外出するときは必ず渡った。幼稚園からの行き帰り、私はいつもしばらくここで立ち止まり、列車が通過するのを待った。  陸橋の上からは、さまざまな列車や電車が見えた。流線型の電気機関車EF58が牽引し展望車を連結したうす緑色の特急「つばめ」と「はと」。博多行き寝 […]
アメリカを探して:第3回  携帯電話、オバマケア、憲法

アメリカを探して:第3回 携帯電話、オバマケア、憲法

 アメリカ合衆国最高裁判所は、毎年10月に開廷され翌年の6月下旬まで審理を続ける。この期間を開廷期(Term)と呼ぶ。7月はじめには長い夏休みに入り、10月に次の開廷期がやってくるまで、9人の判事たちはそれぞれ本を書いたり講演をしたり、あるいは避暑にでかけたり、思い思いに過ごす。  最高裁は下級審判決からの上告をすべて取り上げるわけではない。予備的な審査を経て取り上げると決めた事件は、まず当事者の […]
アメリカを探して:第2回 それぞれの歴史問題:日本、イスラエル、アメリカ

アメリカを探して:第2回 それぞれの歴史問題:
日本、イスラエル、アメリカ

 昨年12月末に安倍晋三首相が靖国神社を参拝してから、早いものでもうすぐ1年経つ。当時、日米関係は多少ぎくしゃくした。もともと安倍総理が好きではない日米の進歩派は、それ見たことかと中国や韓国と一緒に非難したが、それだけではない。日米関係を重要視し日本に好意的なアメリカの政権内外の人たちも、当惑を隠さなかった。より強固な日米関係をめざすいろいろな努力に、靖国参拝が水を差したからだ。「未来を語ろうと言 […]
アメリカを探して:第1回映画『リンカーン』と日米憲法改正比較

アメリカを探して:第1回
映画『リンカーン』と日米憲法改正比較

 一昨年、スティーブン・スピルバーグ監督の『リンカーン』という映画が公開され、全米で大きな反響を呼んだ。リンカーンを演じたダニエル・デイ・ルイスは、アカデミー賞主演男優賞を獲得した。1865年1月、リンカーン大統領がいかにして反対派の強い抵抗を抑え、議会下院での憲法修正第13条可決を実現し、恒久的な奴隷制度廃止に道を開いたかを真っ向から描く、歴史大作である。  この映画は昨年日本でも公開され、安倍 […]