─受け身のレッスンから自発的なレッスンへ─

「Imitate. Assimilate.Innovate.」by Clark Terry

 ジャズを初めて聴いたとき「なんて楽しそうに演奏するんだ!」と衝撃を受け、私もやってみたいと思いました。独学で勉強をはじめたものの、やはりきちんと勉強してみたいという気持ちが強まり、アメリカ・バークリー音楽大学の奨学金オーディションを受けました。

 この時は必死で練習したジャズのスタンダート1曲と「全日本ソリストコンクール・入賞者披露演奏会」で演奏したリストの「スペイン狂詩曲」を演奏、そのほかに与えられた課題は、初見(その場で与えられた楽譜を見てすぐ演奏する)と聴音(この時はギターのフレーズを聞きながら楽譜なしでの演奏)というオーディション内容でした。

 クラシック演奏においては高評価をいただき、クラシック科への推薦状をいただきましたが、スタンダート曲演奏はジャズ演奏の経験が無かった為、どんな演奏をしたのか思い出すこともできません。しかし無事オーディションは合格し、年間7,000ドルという費用をいただくことができました。
そして1年後、アメリカ・ボストンにあるバークリー音楽大学に入学。初めてのプライベートレッスンは課題が多いことで有名なジェフ・コーベル教授に師事して学ぶことになりました。
最初に与えられた課題はBill Evance(ビル・エヴァンス)の「Here is that rainy day」という曲をトランスクライブ(録音音源をもとに録音内容を起こす)することでした。

 クラシックを勉強している時は与えられた課題曲(譜面)を一週間後の次のレッスンまで、一生懸命練習するのが当たり前だった私にとって、一週間でエヴァンスの曲をトランスクライブするということは、とても大変なことでした。それでもなんとか一週間で仕上げて次のレッスンで演奏すると、ジェスの第一声は

 「えっ!全部やったの? すごいね!」

  演奏し終わった私に「Good Job」といいつつも、いろいろなアドバイスをしてくれました。「最期まで慌てて演奏するのではなく、一小節でもいいから完璧にエヴァンスの旋律、ボイシングをコピーしなさい」と言われ、さらに「もっとちゃんと弾いてね」と言われてしまったのです。

 次のレッスンまでの一週間、もう一度とり直し、エヴァンスと同じようなテンポで弾くことを心がけました。トランスクライブに関してはだいぶよくなったと評価してもらえたのですが、弾き方に関しては相変わらず「どうしてそんなふうに演奏するの?」と指摘され続けました。

  この頃の私は、クラシックを勉強していた感覚をそのまま引きずっており、楽譜から自分なりに解釈したり、CDなどいろいろな人の演奏を参考にしながら仕上げていくものだと思っていました。

 しかし、ジャスとはそういうものではなかったのです。三連符を基本としたリズム感や即興演奏が主となるジャズでは、とった音をただ演奏するのではなく、ジャズプレーヤーたちがどのようにして即興演奏でのフレーズやリズムの歌い回しをしているのかを学ぶ必要があります。そのためにはトランスクライブすることで基本を学び、シンプルなメロディーをどのようにフェイクしているのか、ボイシングは、リズムはどのように演奏しているのか完全コピーをして体で覚える必要があります。もちろん、このような勉強法は私にとって初体験であり、簡単なことではありません。今の私でも、試行錯誤の連続です。

  また、クラシックのレッスンを受けていた頃の自分との大きな違いは、与えられた課題をこなすだけでは時間の無駄、ということ。与えられた課題の真の意味を考え、自分がやろうとしていることは本当に意味があるのかを自分自身に問う。この作業を繰り返すことで、私はクラシックのレッスンでは常に「受け身」でいたことに気づきました。受け身だと、このリズムはどこから来ているのか、このハーモニーの進行の所以などを熟慮することなく、ただ単に勢いに任せて弾くだけになります。「音を取りなさい」と言われ「はい、取りました」では、ジャズにおいて何の意味をもたない、ということに気づかされたのです。そして、同じ事がクラシックのレッスンにおいても必要だったということにも。

  今、私は教える立場になりました。生徒のみなさん一人ひとりに対して、今の練習が、本当に意味あるものなのか自問自答しながら演奏することの大切さを伝えています。私自身、ジャズに出会う以前に身に付いてしまった思考のクセをなくすことはいまだに難しいと感じつつも、そのことに気づくことで、さらに音楽の魅力に触れることができると思います。

 

 【引用出典】
http://jazzadvice.com/clark-terrys-3-steps-to-learning-improvisation/

 


 

Interview

山田貴子(やまだ・たかこ)
6歳よりピアノを始める。15歳より和久利幹子氏に師事。 国立音楽大学ピアノ科推薦入学、日本ピアノ教育連盟オーディション奨励賞、 全日本ソリストコンテスト奨励賞。 卒業後、ジャズピアノに興味を持ち、独学で学ぶ。 1997年、ボストンのバークリー音楽大学へ奨学金を得て入学。 ジェフ・コーベル、レイ・サンティーシ他に師事。 2001年に帰国。2001年12月 浅草ジャズコンテストバンド部門銀賞。
2006年に1stアルバム『Deep blue』、 2010年10月、2ndアルバム『My story』全国発売。 2013年千葉市芸術文化奨励賞受賞。 繊細さと豪快さを併せ持つ注目のピアニスト。 現代音楽のエッセンスを交えたユニークな楽曲と先鋭的な インプロヴィゼーションで、都内を中心としたライヴハウスを盛り上げる。 2010年の2ndアルバム・リリース後は全国ツアーを成功させるなど、 群雄割拠のジャズ・ピアノ・シーンにあってこれまで着実に歩みを進めている。